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扉を開けようとしたら課長の怒鳴り声が聞こえて、最悪なタイミングで出勤したと思った。聞こえるか分からないくらいの小さな声で挨拶して事業所に入ると、扉に一番近い席に座っていた丸山さんが私を見て苦笑いしていた。

怒鳴られていたのはやっぱり健で、課長の「早く行って来い!」を合図に、事業所から出て行った。

健が出て行った後、課長は大きなため息をついてみんなに聞こえる声で「どうにかしてくれよ」と言った。健のことは、大抵わたしに言ってくるけど、なんて答えれば良いのか分からないのでいつも聞こえていないフリをする。今回もわたしに言っていたようで、「あいつ本当にダメだわ。お前彼女なんだからどうしたら良いのか教えてくれ」と言った。事あるごとに「彼女」という単語を持ち出されて、健のことを聞かれる。聞かれたところで一体何の話かも分からないし、何よりわたしに言ったところで何の解決にもならない。50のジジイが気色悪いと思うけど、言い返しても面倒なのでいつも苦笑いをして誤魔化す。

反応がイマイチだったのか怒りの矛先がわたしに変わった。「そういえばあのアポどうなった?」から始まり、調整の方法が悪いだのなんだのネチネチと言い始めた。

こういうとき、あんまりにもしつこく言われるから、怒られていることよりもどうやったら黙らせることが出来るか考えてしまう。パワハラで訴えようと思えば出来そうだけど、なんだか大事になりそうだし、何より指導との境目が曖昧だ。一番簡単なのはきっとセックスすることだけど、やっぱり気持ち悪いし安売りしたくないと思ってしまう。課長と男女の仲はやだなぁなんて考えていたらいつの間にか説教は終わっていた。